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講演用の原稿・・・2
それまであまりにも地味にしていたので、友達には「出家して坊主になったらしい」と噂され
お向かいのおばさんには「滅多に見かけなかったからてっきりご結婚されて…」
嫁ぎ先は東京だったらしいです。なんでじゃ。


ところが個展をしてからは変わった。


私自身は変わらないけれど、周囲が一気に動き出しましたね。
仕事をもらえるようになって、さまざまな人たちと出会うことになった。
人の出会いは芋蔓式で、あっというまに繋がっていく。ちょっと怖いぐらいでしたよ。
こんなに外の世界とリンクしていっていいのか。スピードについていけない。


「佐藤さん飲みに行こう」


誘われて行ったススキノで、「あんたの作品見たことあるよ!」なんて肩を叩く酔っ払いと出会う。
うっそ、ほんとにー!?うれしー!
私も酔っていいるのですかさず近づいて乾杯してしまう。

一晩飲み明かして、「お前こんなことできるかぁ~」べろべろに酔っぱらった後
「やるよおぉぉぉぉ~。じゃあ今度ファイルもって遊びに行きますうぅぅぅ」


その方の友達から仕事をいただいた、なんてこともありました。




一番周囲に驚かれたのは、やはりテレビコマーシャルに出たことですね…。


(映像:富士メガネCM))


私はただただ照れくさいばかりなんですが、これも個展がきっかけで受けたものです。
江別で小さな展示を細々やっていたのを、映像関係者の方が宣伝に気がついてくれて
プロデューサーの方といらっしゃいました。
富士メガネのコマーシャルで、「これから先の未来を見つめるあなたの瞳の力になりたい」みたいなコンセプトで
取り上げてくださったんでした。



滅多にない経験ですから、緊張したけれど楽しかったです。
私ひとりのために、スーツ着たエライ人たちがトレーに並んだいくつものメガネをもってくる。
撮影のための衣装合わせ、ヘアメイク。なんか勘違いを起こしそうでした。



富士メガネさんからのお仕事もそれがきっかけでいくつか担当しましたし
そこから派生したお仕事もある。スタッフの方とは未だに仲良くさせていただいています。


実際のテレビではその自分の姿を目にする機会は少なかったです。うち、テレビあんまり見ないので。
ただし、地元当別では有名になりました…。
これを機に、絵の仕事のことでうるさく言う人はいなくなりましたね。





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よく漫画で「締め切り」という言葉がありますよね。
私の仕事にも締め切りは当然あります。いつもヒーヒー言って苦労してます


一度3つの仕事の締め切りと、個展の搬入が重なって本当に死にそうになったこともあります。

そのうちのひとつは何度何度も駄目だしを喰らい、
おんなじ絵を5回以上描きなおしさせられてました。


そのときの個展会場は石狩市の大きな会場でアートウォームと富士めがね主催協賛の大切な展示で
出品数は100点強。
額居れも終わっていないという、
まさに修羅場でした。



額は器用な父が半分作ってくれていたのですけれども



「仕事と個展とどっちが大事なんだバカヤロー」



と怒鳴りながら木を切っている状態で
私は泣きながら呑気な田園風景のパース画を仕上げてたんですね。



立ちながら寝そうになったのはあのときが初めてでボロボロでしたけれど
今となってはいい思い出、いい経験ですけど。あんまり繰り返したくないですね、もう笑


・・・・・・・・・・・・・
あと、気になるお金の話をしましょう。サラリーマンのように決まった金額を手に入れるような生活ではないです。
レギュラーの仕事はともかく、単発のそれも多いわけで毎月変動があります。
良くも悪くもびっくらこくこともシバシバ。


一日があっという間に過ぎていきます。確かに充実もしてたし、目が回りそうだった。



目まぐるしく変化した周囲のなかに、私はちょっと我を見失いそうになりながら暮らしていた時期がありました。
その大半が、やったことのない内容。
来るもの拒まず。「はじめてやります。まだ慣れてません」その繰り返し。
「これって、イラストレーターの仕事の域を超えてるよなぁ…」って。
何でも屋になりつつあって悩んでましたね。


確かに、初めてお金に困らなくなって、嬉しかったです。



作品で得たお金というのは・・・・ずっと夢だったから。
でも漠然とした夢をというのは・・・・漠然としていますから…。実感を持てないままだった。



相手の求めるものにすべてを合わせているうちに、とても消耗していくのを感じていって
「使い捨てされちゃう」と強烈な不安を持ってしまった。
それは「お金稼げなくなっちゃう」という不安じゃないんです。

たとえ仕事が減って時間ができても、自分の絵すら描けなくなってしまったらどうしよう、という不安でした。



自分の中の方向が定まらないままなんとなくやってきてしまったツケを感じましたね。
柱を持たず動いていると、あっというまに崩れてしまう。
作品が面白いほどに、面白味が褪せていく。

そして相手も飽きて使わなくなってくる。

世の中は新しいものを追い求めているじゃないですか。
確かに便利だけど、予測できるものが仕上がってくるのは面白くないですよね。


ですから、考え方を変えないとダメだなと思いました。




相手の条件をすべて飲んで、仕事の量を増やそうとする方法ももちろんあります。
自分の作るものを優先させるかどうかは、それぞれのやり方があるでしょう。
私の場合は自分の納得する(絵と仕事にある程度の自負があるので)その点の折り合いはつけて妥協はしないようにしています。

相手の言いなりになったからとっいって、仕事がたくさん来るのかというとそうじゃない気がする。
逆に軽く扱われ、だんだん飽きられて切られていくことの方が圧倒的に多い。
少なくとも、私はそうだったんです。

広く知られるためには、一番自分自身を大切にすることなのかなと思ってます。


フリーランスで大変なのは、とにかく孤独であることです。
やり方や、何かトラブルがあった時、書類もすべて自分で考え対処して作らないとだれもしてくれないし
まだ若くで、女だし、気の抜けたとぼけた奴だぞ、というときにうまい具合に使われてしまう場合も無くもなかった。


私忘れっぽいので細かなディティールは覚えてませんが、(忘れっぽさにはある意味大いに助けられてます。)
悔しい思い、痛い思い結構しましたよ。大人ってズルイとか(笑)ヒドイワ、とか。

もちろんいい人たちには恵まれて、いい出会いが多い方です。
とっても助けられていますよ。


会社にいれば、同僚や上司が話を聞いてくれる。仕事のやり方を教えてくれる。
しかし一人でやっていると、同業者にはなかなか思いきった相談はできません。
「助け合おうよ」といったって、ライバル会社同士とおきかえたら、とても手の内は明かせないじゃないですか。
神経質なだけなのかもしれませんが、なるだけ自力で解決するように心がけています。


初めは外出もイライラしてダメでしたね。
街にでて、知り合いや友達とあうと
「やあ、活躍しているね」といいます。だいたい、言います。
「○○の仕事もしたらしいじゃない。がんばってるね」

でしばらく話していたら「その仕事って幾らもらったの?」「ていうか、くみちゃんてどのくらい稼いでるの」

この質問が辛くてねー。
なんで話さないといけなんだろ、どうして聞けるんだろうって思うんですよね。
普通の会社員にそんな質問普通にできるわけないでしょう?単なる好奇心とはいえ、無礼な人だなと昔は一々腹を立ててました。


彼らは、決して自分の財布の中身を知らせずに聞くんです。自分のことを守っていて人のプライベートに踏み込んでくるのよ。

いっぺん
「僕の年収は幾ら幾らで、今月はこんなに儲けて税金ガっパリ取られちゃったよ。
そんなわけで僕って超リッチなんだけど、くみちゃんはどうだった?」
・・・・くらい喋ってから訪ねてきてほしいです。


「絵じゃとてもやっていけないでしょう」とかね。「親御さんも大変ねえ」とかさ。
「お金持ちと結婚するっきゃないねー」とか?

悪気があって聞いてくるわけじゃないですので、怒れません。こういうのからも耐えないといけない。
敵も気軽に作れませんし(笑) 



しかしこんなことはまだ大した話ではないですよね。



ジブリアニメの「耳を澄ませば」を見たことがありますか?
あれを見ると号泣しちゃってグジャグジャになっちゃう。

作家志望の中学生が、必死になって一冊分の小説を書き上げるんです、受験勉強シーズンに。
お母さんは当然猛反対するの、“あんた何考えてんのよー”そしたらお父さんがこういうんです


「自分の信じるとおりやってごらん。でもな、人と違う生き方はそれなりにしんどいぞ。何が起きても誰のせいにもできないからね」
って。



絵は、紙と鉛筆があればいつでもどこでも始められます。だから辞めることも簡単にできる。

「くみちゃんは好きな仕事ができていいよね」というのは、どんな時も中断させず描いてきたから。
みんなやめちゃうんだもん。辛いことがあったり、
難しいことが起こりそうになる寸前で、色々理由を付けてさっさと辞めてしまう。
辞める理由はたくさんあります。
「忙しいから」「生活が苦しいから」「子どもが生まれて」「カミさんがうるさくて」

やる人は何があっても続けている。
理由は一つしかない。
「好きだから」。



一人で仕事をする。愚痴を言い合える人もいない。
どんな状況でも基本は一人。デッドラインに追われるより、精神的なモノに追われる辛さは、ちょっと気が変になりそうな時もあるでしょう。
ずーーーーーーーーーーっとこもってやっていると息が詰まって「ワーッ」となります。私も一度や二度じゃないです。


電話の呼び出し音に一々ビクッとしたり、メールを開くのに気が重かったり。
「進み具合はいかがですか」
「もうそろそろできそうですか」
「これでもいいんだけど、イメージとまだちょっと違う」

仕事の催促
しめきり
ダメだし。

バイブの振動にとても敏感になっちゃいましたよ。



広いアトリエで作業しているならまだいいけれど、狭い部屋でずっと籠りっきりにやっていると4面がグワッと内側に倒れてきそうに感じて息苦しかったり。

私は応援してくれている家族がいるし、何でも話せる人もいる。
100人の友達より大切です。彼らがいなかったらと思うとぞっとします。



きっと、それが一番大変なことです。フリーランスというものは。ほかのフリーの方を実情は知らないけれど
そんな気がしますね。



by bacamasa | 2010-06-21 00:00
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